Relay Interview リレー対談 国際協力の基本は受益者を支え、エンパワーすること。しかし、遠く離れた、社会経済環境も違う世界での支えは。日本の人々にはなかなか実感がわかない。身近なスポーツの世界から「支える」姿を伝えて啓発できるかもしれない。スポーツ対談を通して、当団体も生かし生かされる国際協力も見つめ直せるかもしれない。スポーツをするプレイヤーを支える人々に商店を当てた対談により、支えることの大切さとスポーツの力・価値を浮き彫りにする。

第7回 向山 昌利さん

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GUEST

流通経済大学准教授

向山 昌利さん

同志社大学卒業、同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科修士課程修了、同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程中退。ワールドファイティングブル、NECグリーンロケッツで活躍。元ラグビー日本代表(キャップ6)。びわこ学院大学教育福祉学部スポーツ教育学科講師を経て、流通経済大学スポーツ健康科学部准教授(スポーツ社会学、スポーツマネジメント)。「開発のためのスポーツ」の研究と実践に取り組んでいる。一般社団法人子どもスポーツ国際交流協会代表理事。

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INTERVIEWER

チャイルド・ファンド・ジャパン事務局長

武田 勝彦

中学時代のベトナム難民との出会いが転機となり、国際支援の道を目指す。金融機関での勤務経験や英国大学院留学を経て、いくつかの国際NGOにて、世界各地での開発支援事業や緊急復興支援事業の運営管理、事業部長や事務局長を歴任。2017年4月より現職。

今回は、タグラグビーを通してアジアの子どもたちを支えるパス・イット・バック プログラムを何度も視察し、このプログラムをよくご存じの流通経済大学准教授の向山昌利様を迎えての対談です。スポーツと国際協力についてもお話しいただきます。

父が知らないスポーツをする

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武田)どうしてラグビーをするようになったのですか。

向山)小・中学校で野球をしていました。しかし、野球に詳しい父が色々と口を出すのが嫌でした。父が知らないスポーツをしたくて、高校からラグビーを始めました。ルールも知らずに始めたのですが、たまたまこの時期のラグビー部は強くて、高校2年生と3年生の時に全国大会に出場できました。

武田)野球とラグビーは何が違いましたか。

向山)野球は個人プレーが多いような気がします。一方で、ラグビーはチームでプレーするように思います。その点に違いを感じました。

武田)その後、ラグビーの名門である同志社大学に進みましたが、このラグビー部での選手生活はどうでしたか。

向山)戦績が良かったとは決して言えませんが、とても楽しかったです。卒業後、株式会社ワールド、そして海外にラグビー留学し、日本電気株式会社(NEC)と進みました。NEC在籍中にようやく日本一を経験することができました。

武田)悲願の優勝を味わうことができてよかったです。ひとつの目標を達成しましたが、その後はどうされたのですか。

向山)NECでは4回優勝することができましたが、2009年、数年前に負ったケガが原因で引退しました。ちょうど、母校の同志社大学がコーチとして呼んでくれたので、自分がやってきた経験を後輩に伝えようと思い、引き受けました。同志社大学の大学院でスポーツと国際協力を研究しながらコーチを務めました。

武田)どうして大学院に進もうとしたのですか。

向山)NECでプレーしていた時期に、日本とタイの子どもたちを対象としたラグビー国際交流を運営する機会があり、それまでの経験だけでなく理論的にもしっかりとしたプログラムを提供したいと思い始めました。同志社の大学院にちょうど良いコースがあり、国際協力を学ぶようになりました。自分自身はコーチには向いていないと思うこともありましたし(笑)。

スポーツと国際協力

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武田)コーチ業は長く続かなかったのですか。国際協力でも、良いエイドワーカー(支援現場で支援にたずさわる専門家)が良い指導者になるかといえば、必ずしもそうではないですからとてもよく分かります。

向山)大学院での修士課程修了後に滋賀県の大学で講師をすることになりました。この大学では、スポーツマネジメント論などを教えました。ちょうどその頃ラグビー国際交流を運営する組織を法人化しましたので、理論と実践を並行しておこなうことができるようになりました。

武田)向山さんが国際協力に興味をもったきっかけは何ですか。

向山)2000年頃に国連のイニシアティブによりスポーツによる国際協力に対する関心が高まり始めました。私が興味を持ったのは、その流れが日本にたどり着いた頃だったのだと思います。欧米やオセアニアではこの分野の研究が進んでいますが、日本はまだ遅れていると言われています。ただ、東京オリンピックもあって「スポーツ・フォー・トゥモロー」(※1)もあるし、ラグビーワールドカップ2019もあって「アジアンスクラムプロジェクト」(※2)があり、研究も実践も加速しているように感じます。

※1 2014年から東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を開催する2020年までの7年間で開発途上国を始めとする100ヵ国・1000万人以上を対象に、日本国政府が推進するスポーツを通じた国際貢献事業。
※2 日本ラグビーフットボール協会がホストユニオンとなってアジアで初開催するラグビーワールドカップ2019の成功に向け、アジアラグビー界の普及・強化やアジアの国同士の協力体制構築に取り組む活動。

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武田)私はこれまでスポーツは選手のためにあるものだと思っていました。しかし、先日、向山さんの授業に参加し、スポーツが中心となって、教育、健康、ビジネスなど様々な分野で役に立っていることを知らされました。この辺のスポーツの広がりについて教えてください。

向山)日本では高齢者を中心に医療費が増加傾向にありますから、健康な人を増やすことは、財政負担の軽減につながります。教育面では、少子化が進む中、また教員負担に関心が高まる中、部活をどのように再編し、誰がどのように指導するのか、仕組みを考えることは重要な課題です。スポーツはライフスキルを学ぶ機会を提供することもできます。また、オリンピックやワールドカップのような世界的な大会はビジネスとの連携も必要です。スポーツイベントの規模が大きくなっていくと地域の自然環境に負荷がかかり、環境破壊の危険性も高まりますからそれをどうやって抑えていくかも考えなければなりません。

武田)これはSDGs(持続可能な開発目標)ではないですか。スポーツとビジネスは両立しない、相反するような存在同士だと思っていました。スポーツとビジネスについて、教えていただけますか?

向山)スポーツの発展にはどうしてもお金が必要です。多様な人にそのスポーツをしてもらうために快適な場所を確保するとか、適切な指導者を養成する際にはお金が必要になります。お金が回る仕組みを作るためには、ビジネスの考え方が必要になってきます。一方、ビジネスとべったりとくっつくことが良いことだとは限りません。例えば、ビジネスによって、スポーツのルールが変わってきていると言われています。卓球の球に色が着いて大きくなったのは、テレビでちゃんと映るようにするため、つまり卓球をもっと見栄えの良いものにするためだとも言われています。バレーボールのサーブ権がなくなったのは、テレビの番組枠に収まるように早く試合を終わらせるためだと言われています。全米プロバスケットボール(NBL)が前半後半だったのがクオーター制になったのもCMを入れるためのようです。このようなメディアからの過多な影響を避けるために、スポーツはお金と適度な距離をとらないといけないと思います。

武田)向山さんはいま大学においてビジネスでスポーツをする人を育てる立場にいますが、このようなスポーツとビジネスのバランスについてはどう教えているのですか。

向山)スポーツマネジメントと言っても、スポーツのビジネス面だけをマネジメントするのではなく、スポーツの価値を大切にするマネジメントについても伝えています。仮にビジネス面だけに注目してスポーツをマネジメントする人がたくさんいたとしても、その取り組みの中にスポーツがビジネス化することのリスクを知る人がいるといないでは、結果が大きく違ってくると思うのです。リスクを知らずにスポーツをマネジメントすることと、リスクを知ってスポーツをマネジメントすることは大きく違います。

パス・イット・バックへの関心

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武田)向山さんが代表を務める団体について教えてください。

向山)任意団体を発展させて、「一般社団法人子どもスポーツ国際交流協会」を設立しました。法人にして信頼性が増したことで、支援者も増えて、寄付も増えました。ただ、課題は色々あります。活動の発信がしっかりできているかというとまだまだだと思います。この2年間は子どもたちが釜石で異文化に触れる活動も行っています。来年以降も続けていく予定です。イベントを継続していくことで釜石のまちづくりにも貢献したいと考えています。釜石はラグビーワールドカップを開催するので世界中から注目を浴びると思います。でも、その関心が一気に引いていく危険性もありますから、少しでも持続可能性を高めるために、釜石のまちづくりを僕らは地域の人たちとやろうと思っています。

武田)どうしてパス・イット・バック プログラムに関心をもたれたのですか。

向山)スポーツを活用する国際協力の取り組みは、サッカーを活用するプログラムが多く、アフリカで実施されることが多いです。アジアでのラグビーの位置付けに以前から興味がありましたから、パス・イット・バック プログラムに関心をもちました。たとえば、ひとことでアジアと言っても色々な国がありますから、異なる言葉や文化の中でプログラムを実施することは大変ではないかと思って、それをどうのように克服していっているのかに興味がわきました。日本人と比べてアジアの人たちが実際にスポーツに参加する機会はあまり多くないような気がします。特に女性は少ないように思います。そのような中、女性のスポーツ参加を促進しながら、競技力向上を目指すだけでなく、ラグビーの価値や社会的価値を学んでもらおうという意図はとても重要だと思います。加えて、競技力を向上させるための支援は比較的多いですが、教育の一環としてスポーツを支援するアプローチは多くはなく、その意味でパス・イット・バック プログラムは貴重な事業だと思っています。

自分が楽しいことを教える

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武田)向山さんの姿勢を拝見していると、次世代の若者を支えて育てているように思えます。支えるのは楽しいことですか。

向山)自分がやりたいこと、やるべきだと思うことを進めていますが、それが誰かの支えになっていれば嬉しいですね。僕はラグビーを通してスポーツの楽しさ、素晴らしさを学べました。他の人よりもラグビーであれば、楽しく指導できるような気がしていますから、ラグビーを活用して国際協力に参加していきたいと思っています。もし僕がサッカーをやっていたら、サッカーを活用していたかもしれません。

武田)これからのご活躍を期待しています。

(所感) 向山さんの生徒さんたちにお会いする機会もありますが、彼らの背中を押して、活躍の機会を提供しているように見えます。この生徒はやる気があると思ったら心底サポートする、それが教員の立場の向山昌利さんと思えて仕方ありません。