Relay Interview リレー対談 国際協力の基本は受益者を支え、エンパワーすること。しかし、遠く離れた、社会経済環境も違う世界での支えは。日本の人々にはなかなか実感がわかない。身近なスポーツの世界から「支える」姿を伝えて啓発できるかもしれない。スポーツ対談を通して、当団体も生かし生かされる国際協力も見つめ直せるかもしれない。スポーツをするプレイヤーを支える人々に商店を当てた対談により、支えることの大切さとスポーツの力・価値を浮き彫りにする。

第8回 西郷 正道さん

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GUEST

特命全権大使

西郷 正道さん

1979年筑波大学卒業、1980年農林水産省入省、同省の企画評価課環境対策室長、環境バイオマス政策課長、生産振興審議官、技術総括審議官兼農林水産技術会議事務局長、顧問等を経て、2018年駐ネパール特命全権大使。

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INTERVIEWER

チャイルド・ファンド・ジャパン事務局長

武田 勝彦

中学時代のベトナム難民との出会いが転機となり、国際支援の道を目指す。金融機関での勤務経験や英国大学院留学を経て、いくつかの国際NGOにて、世界各地での開発支援事業や緊急復興支援事業の運営管理、事業部長や事務局長を歴任。2017年4月より現職。

今回はチャイルド・ファンド・ジャパンの支援国ネパールの特命全権大使、西郷正道大使を迎えての対談です。西郷隆盛氏のご親戚であり、農林水産省ご出身の西郷大使。ネパールでは、「農民大使」「ラグビー大使」と言われているそうです。

ラグビーを愛してやまない

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武田)いつからラグビーを始められましたか。

大使)高校からラグビーを始め、大学でも少しだけラグビーを続けました。大学卒業後、農林水産省に入りましたが、役所にはラグビー部がありませんでした。英会話のレッスンで一緒だった三井物産の方に誘っていただき、週末、三井物産のラグビー部で練習していました。

武田)社会人になってからもラグビーを続けられたのですね。ラグビーのどのようなところに惹かれるのでしょうか。

大使)ラグビーには独特のものがあります。ラグビー仲間が集まると、オープンになれて仲良くなれます。昨年12月、ラグビーワールドカップの優勝トロフィーである「ウェブ・エリス・カップ」がネパールに来た際、天皇陛下誕生日レセプションの機会でもあったので展示したところ、ラグビー大国の大使らは盛り上がり、特にラグビーファンのリチャード・モリス英国大使はとても興奮されていました。

スポーツと外交

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写真:今年5月に大使館とネパールラグビー協会が共催したカトマンズ・ラグビー・フェスティバルで行われた、日本チームとネパールチームとの親善試合にて

武田)今年はラグビーワールドカップ2019、来年は東京オリンピック・パラリンピックがあり、日本政府もスポーツを促進しています。日本政府の取り組みをお聞かせください。

大使)「スポーツ・フォー・トゥモロー」をご紹介しましょう。これは開発途上国を中心とした100ヵ国・1,000万人以上を対象に推進されるスポーツ国際貢献事業です。ネパールでは、サッカーが盛んですから、指導者の派遣・招へいやサッカー場の整備を行っています。また、ネパールでのスキー振興のために機材提供も行っています。

武田)ネパールは青年海外協力隊員も多いようですが、スポーツ隊員も派遣されているのでしょうか。

大使)現在、50名程の隊員がネパールで活躍しています。うち4名はスポーツ隊員です。ソフトボール、ハンドボール、サッカー、柔道の種目です。

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武田)東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本とネパールとの間ではどんな動きがありますか。

大使)福島県田村市がネパール代表陸上選手を招へいしてくれました。神戸市もパラリンピックのネパール代表選手をホストすることになっています。姉妹都市としては、カトマンズと長野県松本市、ポカラ市と長野県駒ヶ根市などがあります。駒ヶ根市は青年海外協力隊の所縁の地で交流も盛んです。

武田)ネパールのスポーツ選手の活躍はどうですか。

大使)ネパールではパラスポーツが盛んです。パラリンピックでは、まだメダルを獲ったことがありませんが、いま水泳選手が注目されていて、メダル獲得が期待されています。また、パラグライダーは昨年アジア大会で銀メダルを獲りました。

日本ラグビーへの期待

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武田)9月20日にラグビーワールドカップ2019が開幕しました。チャイルド・ファンド・ジャパンはワールドカップ後のこと、レガシーについても考えることがあります。ラグビーワールドカップへの期待やレガシーについてコメントをお願いします。

大使)日本のラグビーはこれまで日本代表選手のラグビーや早明戦などの大学ラグビーという認識をされてきました。でもこれからは「チームジャパン」として見てもらいたいです。いまは8万5千人のネパール人が日本に住んでいます。ネパール人が日本代表選手になる日を夢見ています。ネパール人も日本代表選手になれるのがラグビーです。アジアの人たちが「日本が(アジア初開催のラグビーワールドカップ2019を)開催してくれた」と言ってくれると嬉しいです。私はただラグビーが好きなだけで、ラグビーに生かされていると思っています。

武田)「ラグビーのお陰でいまの自分がある」とおっしゃる対談者がいままでにもいらっしゃいましたので、「ラグビーに生かされている」という大使の言葉は、それを表していると思いました。「生かし生かされる国際協力」を目指すチャイルド・ファンド・ジャパンとも重なります。お忙しい中、対談のお時間をいただき、ありがとうございました。

(所感)
ラグビーをこよなく愛されている様子が表情と熱弁から伝わる対談でした。先日ネパールで30年ぶりにラグビーの試合に参加され、地元の新聞でも紹介された記事を大使から見せていただきました。ラグビー経験のある大使ならではのネパールでのご活躍です。対談後には農業技術者としての側面もお聞きしました。農民大使、ラグビー大使として、これからも日本・ネパール間の経済社会発展にご活躍いただきたいです。