チャイルド・ファンド・ジャパン

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ネパール大地震 緊急・復興支援プロジェクト


はじめに
食料
シェルター(仮の住まい)
子どもの保護(チャイルド・プロテクション)
教育
水と衛生
収入向上
能力強化
おわりに

はじめに

過去80年で最悪の被害

2015年4月25日、首都カトマンズから北西80キロを震源とするマグニチュード7.8の巨大な地震がネパールを襲いました。5月12日にはカトマンズから北東75キロを震源として、マグニチュード7.3の2度目の大地震が起こりました。31の郡で被害があり、特に中西部の14の郡ではインフラ、家屋、学校、道路などに深刻な被害がありました。死者数は約9,000名にものぼり、22,300名が負傷しました*1。14の郡で被災した280万名のうち4割の110万名が子どもでした*2。地震によって605,254の家屋が全壊し、288,255に一部損壊の被害がありました*3。35,000の教室が安全に使うことができなくなりました*4。もっとも被害の大きかった地域の1つであるシンドゥパルチョーク郡では、数千人の人々が負傷し、3,570名が犠牲となりました*5。

迅速な対応

被害状況とニーズを調査するため、チャイルド・ファンドのスタッフは地震が起きてすぐに深刻な被害を受けたシンドゥパルチョーク郡の事業地に入りました。カトマンズで支援物資をそろえ、事業地への輸送手段も調整しました。地震発生から6日後となる5月1日、チャイルド・ファンドの緊急支援チームは食料支援と仮の住まいのための資材の配布を開始しました。その後6週間以内に、郡内の4ヵ村で3,227世帯が支援物資を受け取りました。

初回の緊急物資の配布と並行して、子どもたちと地域の人々のニーズに応える計画づくりのための調査が進められました。5月と6月には、子どもたちが集まって遊んだりこころのケアを受けたりすることができる、チャイルド・センタード・スペースが設置されました。余震が続き、学校が休校となり、仮の住まいで過ごすことが多い時期に、この活動は子どもの保護(チャイルド・プロテクション)の点からとても重要になります。

地震直後の緊急支援実施後、学校機能の回復の支援を通じて、子どもたちが通常の生活に戻るための活動に取り組みました。6月から10月の5ヵ月の間には仮設教室を建設し、水飲み場やトイレの修復も行いました。子どもたちが学校に戻れるように、子どもたちと教師に教材のセットを配布しました。12月には冬の寒さへの対策として、教室に防寒対策が施され、子どもたちにはセーターが配布されました。学習設備や学用品への支援に加えて、教師や地域のリーダーを対象として、防災や緊急時の教育、心理社会的カウンセリングや子どもの保護などをテーマとした能力強化のための研修が行われました。子どもの保護の地域の仕組みや基準を評価し、監視やリファーラル(照会)のシステムの整備にむけた調査を教師や地域のリーダーとともに実施しました。

緊急支援から復興支援へ

支援開始から約1年を経て、復興に向けた取り組みが本格的に開始しました。教師や地域のリーダーたちとの協議を経て、2016年の6月から耐震性の高い校舎の再建と修復を始めました。トイレと水飲み場の建設もあわせて進められました。現地の文化に合った、子どもにやさしい学習環境となるよう、低学年の教室にはカーペットを敷き、座卓とざぶとんを整えました。地域や政府の指定条件を満たし、また、支援の重複がないように学校の建設支援は郡教育事務所と連携して進められました。今後起こるかもしれない余震や地震に備えて、チャイルド・ファンドが建設する教室は政府の設定基準よりも頑丈なつくりにすることにしました。このような施策は、緊急支援において目指している「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」へとつながっています。シンドゥパルチョーク郡とラメチャップ郡で、合計14校、1,863名の子どもたちに新しい校舎を支援しました。この2 つの郡での2 年半におよぶ活動において、約13,000名の人々、3,000以上の世帯、46校、5,337名の子どもたちが支援を受けました。

緊急・復興支援事業は郡災害管理委員会(DDRC)と調整しながら、3つのパートナー団体とともに2つの郡で実施されました。チャイルド・ファンドはシンドゥパルチョーク郡のパングレタール、ドゥスクン、トウタリ、ペトゥクの4つの村で、食料、教育、子どもの保護、水と衛生、収入向上の分野における活動を担いました。地域の人々が参加することによって、秩序を保って緊急物資が配布され、学校建設の進捗状況も監視され、事業の説明責任を高めることができました。国レベルにおいては、ネパール政府、国連と調整しながら、重複がなく質の高い支援を提供しました。

1. Office for Coordination of Humanitarian Affairs (OCHA)
2. Nepal Earthquake-Humanitarian Situation Report-Three months review-25 July 2015
3. Nepal Earthquake 2015: Post Disaster Recovery Framework- 2016-2020
4. A Year On Nepal Earthquakes: Education Continues In Affected Districts But Children Still Need Safe And Stable Learning
Environment (UNICEF NEPAL)
5. Government of Nepal, Nepal Disaster Risk Reduction Portal

食料

十分な食料への権利を守る

チャイルド・ファンドの緊急支援は、地震による死者が3,570名にのぼったシンドゥパルチョーク郡で、3,227世帯(約12,364名)に食料を配布することから始まりました。郡内のパングレタール、ドゥスクン、トウタリ、ペトゥクの4つの村で、チャイルド・ファンドは2013年から支援活動を行っていました。

食料支援は、2015年の5月から6月にかけて、2回に分けて行われました。米30キロ、豆4キロ、塩1キロ、食用油2リットルのセットを各世帯に配布しました。標高862メートルのパングレタールから1,928メートルのトウタリを含む広範な支援地域内で、標高の高い地域に暮らす人々も受け取りやすいように、村落の代表とパートナー団体とともに戦略的に配布場所を選定しました。

シェルター(仮の住まい)

暑さと雨をしのぐために

続く余震と5月12日に発生した2回目の大地震により、多くの人々は建物の外で生活していました。仮の住まいのための資材は、限られた供給に対して多くの需要があり、入手することが難しい状況が続いていました。そのようななか、チャイルド・ファンドは、雨季に入る直前の5月22日から6月13日にかけて行った食料配布で、住まいのための資材をあわせて配布しました。12×18メートルの防水シートを2,688世帯に、10メートルのグラウンドシートを2,986世帯に配布しました。

子どもの保護(チャイルド・プロテクション)

子どもを誰一人取り残さない
チャイルド・センタード・スペース

地震発生から数週間、子どもたちには地震の記憶がまだ鮮明に残っており、人々が仮の住まいでの生活を余儀なくされている時期にチャイルド・センタード・スペースを設置しました。ラメチャップ郡とシンドゥパルチョーク郡の2つの地域の、合計21のチャイルド・センタード・スペースで最短5日間、最長13日間活動が行われ、85名のボランティアの若者や先生が運営のためのトレーニングを受けました。1日あたり平均1,603名、多い日には2,000名の子どもたちがチャイルド・センタード・スペースでの活動に参加しました。

仮の住まいでの生活で日々やるべきことに追われる母親たちは、子どもたちがチャイルド・センタード・スペースで先生やボランティアと一緒にいることで安心できます。チャイルド・センタード・スペースでは、歌や踊りのほか、お話を聞いたり人形劇を見たりなど、さまざまな心理社会的ケアのための活動が行われました。また、ビスケットやジュースなどのおやつも出されました。地震後の心理的なストレスが子どもたちの行動に表れていないかということも見守られていました。こころのケアが必要だと判断された子どもたちには、スタッフが家庭を訪問し、カウンセリングが行われました。不慣れな仮の住まいでの生活は続いていましたが、チャイルド・センタード・スペースに参加することによって、子どもたちは通常の学校生活に戻る準備を整えました。

最初に設置されたチャイルド・センタード・スペース

思春期の女の子への衛生キットの配布
災害後、屋外での入浴やトイレの使用が余儀なくされる思春期の女の子は特にリスクの高い状況におかれます。少女たちの衛生面でのニーズを満たすため、チャイルド・ファンドは12月に12の学校で、6年生から10年生の女の子851名に、衛生キットを配布しました。衛生キットには、持ち運びしやすいバッグに歯ブラシ、歯みがき粉、せっけん、タオル、洗剤、シャンプー、消毒液、懐中電灯、爪切り、クシ、布ナプキン、下着が詰められています。

子どもの保護に向けた能力強化
1. 地域ベースの防災研修
2015年の11月から12月にかけて、地域の住民代表機関や村の災害管理委員会、地域のリーダーから85名の代表者が参加する、4日間の研修が行われました。防災の基本的な考え方や、防災が子どもたちや家族にもたらす影響について議論されました。それぞれの研修の最終日には、地域の防災の行動計画がつくられました。

2. 子どもの保護の研修
2015年の9月から12月にかけて、教師や村の子ども保護委員会、地域の住民代表機関からの参加者88名を対象に、2日半にわたる子どもの保護の研修を行いました。参加者たちは、国レベル、地域レベルでの既存の子どもの保護の仕組みを見返して、子どもの保護の問題をどのように認識し解決するか、どのように政府と連携するかなどを学びました。

3. 子どもの保護の評価
2015年12月、2つの支援地域で、外部コンサルタントによる子どもの保護に関する評価を行いました。評価報告書では、子どもの保護において、その仕組みや基準を強化すること、監視や通報のシステムを確立すること、地域の能力を高めること、子どもの参加を促進すること、子どもを守るという意識を高めることなどが提言されました。

教育

教育を受ける権利を守る
臨時の学校の再開
シンドゥパルチョーク郡とラメチャップ郡のほとんどの学校の校舎が全壊か部分的損壊の被害を受けているなかで、教育局は2015年の5月31日までにすべての学校で授業を再開することを発表しました。学校再開を支援するため、6月から10月にかけて、チャイルド・ファンドは32校で、60棟120教室の仮設教室を建設し、合計2,401名の子どもたちが通うことができるようになりました。そのうち44棟は雨季が始まる前に完成しました。また、制服や防寒用のセーターなどの学用品を支給しました。

1) 180箱の「スクール・イン・ア・ボックス」(どこでも教室が開け、子どもが守れるよう、最大で生徒40名分の教材が入ったボックス)、96箱の幼児教育セット、60箱の遊具セット、子ども用の本の入った袋93セット
を、ユニセフ(国際連合児童基金)と調整のうえ、46校、5,337名の子どもたちに配布しました。

2) 8月に教師用の教材344セットを45校で配布しました。セットには、ファイルバッグやスケジュール帳、方眼紙、チャート用紙、パンチ、ホッチキス、スティックのり、マスキングテープが含まれています。3) 2郡、45校、5,133名の子どもたちを対象に、筆記用具やスクールバッグ、制服などのセットを支給しました。

4) 2015年の12月から2016年2月にかけて、5,101名の子どもたちにセーターを配りました。

5) シンドゥパルチョーク郡の17校、91教室に、テーブルやざぶとん、靴箱、カーペット、グラウンドシートなどの設備を支援しました。子どもたちの記録を保存するための32のキャビネットも教師に支給しました。トウタリ村の2校には、3つの顕微鏡を支給しました。

災害時における教師の能力強化
地震後の子どもたちの状況に対応するため、教師を対象に下記の研修が行われました。

1. 防災、緊急時の教育、心理社会的ケア
2015年の8月から9月にかけて、45校、220名の教師を対象に、2日間の研修が行われました。参加したすべての教師は、国家教育開発センター(NCED)が作成した災害後の教育用の教材を受けとりました。

2. 心理社会的カウンセリング
2015 年12 月、シンドゥパルチョーク郡の23名の教師を対象に、3日間の研修が行われました。普段の行動に変調がみられる子どもたちがサポートされるようになり、こころに深刻な傷を受けた子どもたちを特定して専門的なカウンセリングが受けられるようになりました。

棚と机が備わった新しい教室

学校の再建
2016年6月7日にネパール政府から学校の再建と修復の認可が得られ、チャイルド・ファンドはパートナー団体、学校、地域とともに建設計画と実施ガイドラインをつくりました。建設が適切に進められ、地域の人々の主体性が損なわれないよう、郡教育事務所と学校運営委員会との協議を重ねました。子どもたちが快適な環境で勉強できるよう、建設計画には政府によって定められた新しいトイレや水飲み場が含まれていました。

2017年の9月までに、2つの郡の14校で、35教室が修復され、40教室が再建されました。低学年の教室にはカーペットと座卓とざぶとんが、高学年の教室には机と長いすが整備されました。すべての教室に本棚、靴箱、ホワイトボード、ドアマットがおかれました。14校、1,863名の子どもたちが、設備の整った耐震性の高い教室で勉強できるようになりました。

水と衛生

安全な水と衛生的な学校環境の確保

安全な水と衛生的な学校環境を早急に確保するため、仮設教室の建設とあわせて5つのトイレを建設し、11ヵ所の水飲み場を修復しました。2016年から2017年に行った17校の学校の再建、修復にあわせて、14校で子どもにやさしい水飲み場が、13校で58室のトイレが建設されました。

収入向上

自分たちの力で生活を立て直すことができるように

家族が子どもたちの健全な成長を促すことができるよう、所得向上を目的としたプログラムを実施しました。シンドゥパルチョーク郡のトウタリ村で、生活が厳しい20世帯(10世帯の2グループ)に、102頭のヤギ(各世帯5頭ずつ)を支給しました。

ヤギを受け取ったすべての世帯は土地を持っていたものの、得られる作物では3ヵ月分の生活をまかなうことも難しいほどでした。2015年の10月に実施された5日間の研修には各世帯から2名ずつが参加してヤギの飼育方法と小屋のつくりかたを学び、11月中旬には小屋の建設とヤギの配布が完了しました。2016年の12月には、新たな10世帯への支援が行われました。

ヤギを受け取った家族

能力強化

Do No Harm 原則*のスタッフへの徹底
* 意図せずとも援助の結果として害を及ぼすことがないようにするという人道原則

支援事業をより適切に実施できるよう、チャイルド・ファンドのスタッフとパートナー団体のスタッフが下記の研修を受けました。

1. コミュニティ・レジリエンシー・モデル(CRM)
この研修は、地震後のトラウマやストレスから生じる変化を理解し、身体的、精神的なバランスを取り戻すことができるようになることを目的としたものです。自身も被災者であるスタッフは、研修を通して自らのレジリエンスを高め、地域の子どもたちをはじめとした人々や他のスタッフに、同様のセッションを実施できるようになりました。

2. 災害管理
この研修では人道支援と緊急支援プロジェクト管理の基本について、導入となる内容が提供されました。

3. 組織の安全と安心
スタッフが安全に、安心して働くための安全管理規定と諸手続きについての研修を行いました。安全管理体制に不備があった場合、どの立場のスタッフであっても、それを指摘して改善する責任と権利があることを再確認しました。

グループディスカッション

おわりに

レジリエントなコミュニティを目指して

チャイルド・ファンドは緊急支援における子どもの保護を活動の最優先に位置づけています。私たちが緊急支援で行うすべての活動は、直接的、間接的に子どもの保護と子どもの権利に関係しています。子どもにやさしい学習環境の整備、様々な年齢、身長の子どもに配慮した水飲み場や、男女ごとの個室があるトイレの建設、子どもの保護や子どもにやさしい教授法をテーマにした研修の実施などは、その一例です。子どもたちによって組織され、学校の環境改善に取り組む子どもクラブの強化や、子どもが関連する意思決定に子どもが参加できるようにする取り組みも、子どもの保護を念頭においたものです。

子どもを重視した迅速かつ質の高い人道的支援を行うために、チャイルド・ファンドは復興支援から地域開発支援に戻る段階において防災の取り組みが組み込まれるようにしています。チャイルド・ファンドの「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」は頑丈な校舎を建設することだけではなく、学校運営や地域で子どもが守られるシステムを強化することも意味します。学校安全計画を準備することによって、災害に備え、被害を軽減することのできる学校を目指しています。

最終評価の要点

プロジェクトを完了するにあたり、今後の支援活動の改善にむけて外部評価を行いました。チャイルド・ファンドは、今回の活動の経験から得られた学びを活かし、地域の子どもたちが、復興からレジリエントな地域へと歩む過程を支えてまいります。

最終評価では、本プロジェクトは適切であり、効率よく以下の目的が達成されたことが記されました。
・質の高い食料と仮設住宅の資材を迅速に配布することによって人命を救うことができた。
・適切に設計、運営されたチャイルド・センタード・スペースの設置と管理、水飲み場とトイレが併設された質の高い仮設教室の建設や、学用品、教材、制服、思春期の女の子のための衛生キットの配布を通じて、中期の復興支援を行うことができた。
・長期的な復興に関しては必要性の高い地域において、耐震性が高く、防音と防熱の役割を果たす天井のある校舎、子どもにやさしいトイレ、水飲み場をつくることができた。いくつかの学校では図書室と事務設備を提供することもできた。
これまでにチャイルド・ファンドがネパールでこれほど大規模な緊急支援を行った経験がなかったにも関わらず、これらの成果をあげることができたのは、チャイルド・ファンドのスタッフ、パートナー団体のスタッフおよび関係者の、忍耐強さ、献身、学ぶことに前向きで柔軟な姿勢によるもの。仕事として取り組む意識では決して成しえなかっただろう。

会計報告

ネパール大地震 緊急・復興支援 活動報告書は、PDFファイルをダウンロードすることができます。こちらのページをご覧ください。